Article for Mar. 12, 2005

他人関係でストレスを感じる人が増えている。他人との距離のとり方、付き合い方がわからないという人が増え、「コミュニケーション不全」という言葉が頻繁に聞こえてくる。

私自身、話しかけても返事が返ってこない若者や、電車やビデオ店でぶつかってきても「すみません」の謝罪もなく、立ち尽くすだけの人に遭遇し、不愉快な思いをすることが多い。そこには肉体はあっても「人」はいない。いや、肉体の発する「人らしさ」までなくしているのではないかと感じることがある。

その一方で、コミュニケーションを中心としたビジネスは大成功している。携帯電話しかり、メールしかり。おしゃべりの場、語らいの場としてとらえると、スターバックスやファーストフード店もその一例に挙げることができる。

これらのビジネスだけに目をやる限り、日本はコミュニケーション欲が噴出しているようだ。事実、喫茶店や携帯電話でひっきりなしに話している人は、自分の内部のコミュニケーション欲を解放することで、どんどん元気になっている。

中年の女性たちが元気なのも、井戸端会議やカルチャースクールで人と交わることが多いせいでもあるだろう。

問題は、この欲求が非常にプライベートな範囲でしか解放されていないという点だ。会社などの場や初対面の人間との間に起きるストレスを、プライベートな場で発散している。半フォーマルやパブリックでのストレスを、プライベートで解消している。

これは非常にもったいない。誰かとつながっていたいという欲求、つまりコミュニケーションへの欲求は非常に大きいのに、それが限られた範囲でしか生かされていないのだ。

コミュニケーションには三種類あると、私は考えている。非常に親しい知人や仲間との会話をするプライベートな場でのA.職場や学校といった、ある目的を持って集まる半フォーマルな場で交流するB.初対面の人や電車や講演会といった場での、パブリックなコミュニケーションを図るC.この三つだ。

図でもわかるように、この三つは、Aを中心として、その周りにB,Cという円を描いている。携帯やメールにに代表されるような活発なコミュニケーションは現在主に (   )の部分で行われている。(    )の部分だけ熱く燃え、(    )に行くにつれ、徐々に冷えていっているといえるだろう。

私が携わってる教育現場でも、BやCの場、つまり半フォーマルな場やパブリックな場で他者からアクションを起こされても、レスポンス (反応) しない学生が増えていると感じている。増してや恥ずかしさや不安を捨てて、他者に自分から積極的にアプローチし関係を結んで行くことが苦手な人は人はもっと多い。

苦手にもかかわらず、半フォーマルな場やパブリックな場で人とコミュニケーションをとらざるをえない機会が増えている。その結果ストレスは増すばかりである。そのストレスをAの場で解消するという悪循環に陥っている。

本書では、主に半フォーマルな場でのコミュニケーション、つまりBを主眼とした。この場での対話が時間的にも量的にも多く、しかもこのBでのコミュニケーション不全が最大のストレスの温床になっているからだ。そこでの対話を質的に高めることが望ましいのはいうまでもない。

この半フォーマルな場での対話力をつける練習が、プライベートでの自分を育て、より高度なコミュニケーション力の獲得につながる王道だと考えている。